ついでにウォーキング

No.17　さぎそう伝説　1/2　　　cf．8月下旬

　少し長いが、さぎそうの伝説を２回に分けて引用する。
『 東京都世田谷区の世田谷公園のあたりには、その昔、吉良(きら)氏の館(やかた)があり、世田谷城と呼ばれた。敵襲に備えて空堀をめぐらし、土塁(どるい)を築いたそのものものしい造りといい、贅(ぜい)をつくした邸(やかた)の姿といい、まさに城であった。およそ三百年昔のことである。

　世田谷城の八代目の城主は吉良頼康（よりやす）といった。頼康は、まわりの者がほとほと手を焼くほどのわがまま男だった。甘やかされて育ったせいか、小さい時から、ほしいと思ったものは、なにがなんでも手に入れなくては気がすまない。大人になってもその性質はかわらなかった。
　世田谷城といわれるほどの豪勢な邸があるというのに、ほかにもほしいと、もう一つ城をかまえていばりちらす、といったふうであった。　そして、また、どこのだれだろうと、ひと目見て好きになると、すぐに「あの女を妻にほしい。」
と言い出すしまつで、今ではもう十二人もの女をそばに置いていた。

　その頼康が、なんとまたほかの女を見染めてしまった。九品仏（くほんぶつ）城主※1、大平出羽守（おおたいらでわのかみ）の娘常盤（ときわ）であった。
「あれこそ、わが妻にふさわしいおなごじゃ。」　
　年の頃十七、八。夢見るように美しく、ひいでた額のあたりには、武将の娘らしく誇らしさもうかがえた。ほしいとなったら、頼康は矢も楯もたまらない。出羽守は、頼康に仕える身、いやとはいえない。かわいい娘を世田谷城の十三人目の女としてさし出すほかはなかった。　』
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「ふるさとの伝説9　鳥獣・草木」（ぎょうせい）より

　※1　「ふるさとの伝説９」では、九品仏城となっているが、奥沢城※2を指すと考えられる。
　※2　世田谷城主・吉良左衛門頼康が築き、家臣の大平出羽守に守らせたという城。天正十八（1590）年、
　　　　　小田原北条氏の滅亡によって廃城となった。寛文五（1665）年、名主七左衛門が寺地として請い受け
　　　　　延宝六（1678）年、珂碩上人(かせきしょうにん)が九品山浄真寺(くほんざん じょうしんじ)を開山した。